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趣意書

東日本大震災からの復興をめざした子どもにやさしい都市・国際提案競技の提案


こども環境学会 会長 小澤紀美子
国際提案競技実行委員長 仙田 満

◆提案趣旨 
今回の東北関東大震災の特徴は大きく3つあると考えられる。第1に地震による建物倒壊ではなく、津波による被害が甚大であったことである。それは都市、地域そのものがほとんど破壊されるほど大きなものであった。第2にその被災地域が長さ500km、主要都市地域約30に及ぶものであること。第3に原発事故による災害が問題を複合化し、その後の復興を困難にしていることである。まだ多くの行方不明者もいることで、原発の問題は速やかな復興への移行を気持ちの上でも難しくしている。
しかしながら災害からすでに2ヶ月、避難している多くの人、まちがどのように復興していくべきか、早急に議論、準備していかねばならない。何よりも被災した人々に、どのようにまちや生活が再建できるのか、どう安全で安心したまちをつくられるのかという再建案、復興案がつくられる必要がある。なによりも子どもたちが元気に育つ都市・地域にならなければならない。すなわち被災者の方々に「夢」が今必要なのだ。「希望」が必要なのだ。そのためのプランを日本のみならず、世界の協力を得て、早急に創り上げるために、子どもが元気に育つ都市・地域の緊急復興マスタープランの国際プロポーザルを実施したい。


◆目的 

新たな絆、新たな夢   
災害は多くの犠牲者を出す悲しい出来事だ。しかしその犠牲を無駄にしないためにも、新たな出発をしなければならない。
今回の大震災も新たな絆、新たな希望とする必要がある。そのためには多くの人々が知恵を絞ろう。

世界の希望とする機会   
国際プロポーザルコンペにより世界の知恵、すなわちデザイン、技術、資金を集め、最も先端的な、安全で地球とこどもに
やさしいサスティナブルな都市、地域をつくることができると思われる。世界の希望となる都市・地域をつくるチャンスである。

多くの人のアイディア   
今、被災地では復興のためのアイディアが求められている。家をどこに建てるべきか、どう建てるべきか、工場は、役所は、
商店街は、農業、漁業、工業をどのように守れば良いか、学校は、保育園はどこにどのようにつくられるべきなのか、新しい
産業をつくれるのか、観光的に魅力的なまちになるのか、公園は緑豊かなまち、美しいまちをつくり得るのか、人々が、こど
もが、お年寄りが元気に生活できるまちになるにはどうしたら良いか。多くの人のアイディアが必要である。

アイディアの結集   
関東大震災に匹敵する今回の大震災からの復興は、高度情報化社会のメリットを最大限生かし、広くアイディア、資金を集
めるべきである。全世界に向けて被災地約30数ヶ所の同時多発的な国際プロポーザルコンペという形で門戸を広げ、速や
かな復興の推進力をつくろう。

多様なアイディア   
コンペティションの内容は従来の都市、地域の空間的な計画のみならず、産業、経済的な投資のアイディアも、民間の事業
意欲を喚起する都市・地域経営型のプロポーザルコンペも検討される必要がある。そうすることによって公的な資金のみな
らず、広く民間の資金を投入することが可能となるだろう。

小さなアイディア   
小さなアイディアも重要である。ある地域、ある環境に対する具体的な提案であっても良い。小さな良いアイディアやデザイ
ンの集積が、美しく、子どもたちが元気に育つまちを創る。

短期間でのアイディア   
そのプロポーザルコンペの期間は募集要項の作成、告知、募集、審査まで約3ヶ月という短い期間で行う。3ヶ月は準備から
見るときわめて短いが復興の加速力としてやらねばならない。

知恵の支援のプラットフォーム   
復興にはさまざまな支援が必要だ。行動する支援、お金の支援、そして知恵の支援だ。このコンペは知恵の支援のプラット
フォームである。

サスティナブル(持続可能)なまちの建設   
復興はかつてのまちをただ元に戻すことではない。新しい災害に強い都市、地域の復興の形であることは明らかである。
求められるのは自然と共生する新たな防災のまちづくり、こども達が元気に育つ持続可能(サスティナブル)なまちづくりだ。

子どもが主役の地域に   
これらの多くの地域はその人口をこの10年間で10%も減少させてきた。それはまさに少子高齢化の最先端地域なのだ。
次の時代を支え、生き生きした地域にするために、この問題を乗り越えなければならない。新しい産業、新しい雇用が生ま
れ、子ども達が産まれ、元気に育つ美しい地域にする必要がある。

美しい地域、美しいまち並みへ   
これらの地域は多く、日本の美しい風景のまち々である。それをこの災害によってより破壊的なものにしてはならない。
より美しく、観光的にも多くの人々が訪れるようなポテンシャルを発揮しなければならない。そのために復興に多くの人の
意志と優れたデザインが必要である。

大地のデザイン   
グランドデザインだけでなく、住民や住民を支え、共感する多くの人々によるグラウンデッド・デザインが求められる。
すなわち地べたからのデザインが必要なのだ。その受け皿としてこの国際コンペが企画された。


◆内容 

個別の地域・地区に対するプロポーザル   
被災地域の状況は大きく異なる。その地域の歴史・文化も違う。したがって個々の被災地域・地区に対するプロポーザル
コンペとする。個々のまちの魅力を受け継ぎながら、きめ細やかな配慮がなされ、住民と子ども達が希望を持って戻って
くることができるまちを提案する必要がある。

2つの類型   
アイディアは個別的なものだけでなく、甚大な被害を受けた被災地に共通した提案もありえる。そのため2つの類型に
大別して提案を受ける。
 A 震災により甚大な被害を受けた地域・地区に共通するまちづくり等に関する提案
 B 震災により甚大な被害を受けた個別の地区に対するまちづくり等に関する提案

自立的柔軟な実行   
国際プロポーザルコンペを実施するためには費用が必要だ。復興国際プロポーザルコンペは、参加費という形での応募者
の支援金により機動的に行う。大事な事は被災された住民、地域のためにより早く柔軟に実行する事だ。

自分で調査   
応募する人はぜひ自らの手でその土地、状況を調べてほしい。被災地区を足で歩いて欲しい。それが無理でも被災の映像
からその被災者の困難を共有して欲しい。共有できる情報はこども環境学会のホームページで公開する。そこから何が必
要か、どういうまちであるべきかというアイディア、夢、そして現実的な方法を提案してほしい。

自らのプログラム   
このコンペには提案のためのプログラムはほとんどない。応募者自身がそのプログラムをつくり、それをもとに提案して
ほしい。

応募者によるプロポーザルコンペ   
このコンペは自治体や国が主催するものではない。応募者により自立的に行われる。それを評価するシステムがつくられ
た。その案が被災された住民の皆さんの支持を得られれば、自治体や国を動かすだろう。応募者の提案が住民の皆さんを
元気づけることができるだろう。その評価されたアイディアが自治体や国の政策に影響を与えることを期待したい。

被災者に寄り添う   
まだ災害は進行中である。原発事故の解決は先が見えない。行方不明者も捜索中の中で復興なんてまだ早いという被災
者の皆さんの気持ちもある。被災自治体も今、手いっぱいである。しかし子どもたちのためには一日も早い復興にとりかから
ねばならない。

こどもの視点   
まちづくりには子どもたちの視点が重要である。できるかぎり子どもの意見も聞いて提案して欲しい。

こどもの参画   
プロポーザルコンペは専門家だけでなく、多くの人々の知恵を集めるという意味では、一種類だけでなく多様なプロポーザ
ルコンペが行われる。小学生、中学生、高校生になれば自分のまちの将来を考えられる。子どもたちが考えるプロポーザル
コンペが用意される。

こどもと都市のレジリエンス(困難を克服する)力の期待   
いつの時代も困難な時はくる。大人は子どもたちが元気に成長する都市や地域を考えなければならない。また、子どもたち
自身、自分たちのまちをどうすべきか考える必要がある。子どもたちがその困難な時を乗り越え、元気に希望をもってその
将来を切り開いてくれるまちづくりがなされなければならない。

若い人達に考えて欲しい   
多くの若い人にこの被災地に立って欲しい。そして考えて欲しい。被災者の悲しみを共有し、いつか同じ悲しみを味わうのか
もしれないことを考えて欲しい。そしてそこから立ち上がるにはどうしたらよいかを考えて欲しい。そしてこの国の将来を、こ
の地域の将来を考えて欲しい。

◆評価 

多面的な評価   
計画案の審査、評価については経済、産業、都市、土木、建築、環境、福祉、医療、教育、行政等、多様な専門家が中心
となるが、決定や選択には住民や子どもたちが参加するシステムがとられる。自分たちのまちの将来を住民や子どもたちが
決定に参加し、自分たちの夢を実現していく必要があるからだ。

多様な評価   
評価者はそれぞれの領域での専門家が相互に議論を行い、総合的な評価が行われる必要がある。応募されたアイディア
に応じて、評価者としての審査員も選定される場合もある。重要なことは優れたアイディアを評価することである。それは評
価者全員に支持されなくても、目利きによる評価者によって発見される場合もある。

プロポーザルコンペによる復興   
短い期間の中で復興するために、その計画者、設計者の選定などにおいて最も簡単という方法としての設計入札などがと
られる恐れがある。それでは長いまちづくりはできない。このような時こそプロポーザル等の方式により、担当者は選定され
なければならない。

復興プロポーザルコンペの先駆け   
今後もその復興の時期に応じて、たくさんのプロポーザルデザインコンペ、技術提案コンペ、事業コンペ等が行われる必要
がある。そして創造的で美しく、また豊かなコミュニティと、子ども達が元気に育つまちの実現が図られる必要がある。
今回のコンペはその先駆けである。

マスターアーキテクトの推薦   
このコンペでは賞金は無い。評価が与えられる。そしてその地区を一生懸命考える優れた人としてマスターアーキテクト、
プランナー、アドバイザーとして推薦される。しかしそれは被災された自治体、住民が受け入れることを保障するものでは
ないが、優れたアイディア、デザインを提出した人は多くの人々に影響を与えるであろう。図られる必要がある。
今回のコンペはその先駆けである。

アイディアが新たな行動力   
アイディアやデザインはさまざまな形で公開される。それによりまた新たなアイディアが生まれる場合もある。
希望と夢と、創造力、行動力が生まれることを期待したい。